原状回復の経過年数と耐用年数|クロス6年で負担がほぼゼロになる仕組みと、例外になる3つ

退去のときに「クロスの張り替え代を全額請求された」——賃貸でいちばん揉めるところです。

ここを決めているのが経過年数(耐用年数)の考え方です。仕組みが分かれば、負担する・しないの線は自分で引けます。試験でも実務でも同じ論点なので、数字と例外をまとめて押さえてください。

前提:借主が負担するのは「通常でない損耗」だけ

国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、原状回復を「賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義しています。

区分中身負担
通常損耗普通に住んでいて生じる汚れ・傷み貸主
経年変化時間の経過による劣化貸主
故意・過失/善管注意義務違反結露を放置してカビ、たばこのヤニ、落書きなど借主

まずこの区分が先です。経過年数の話は、「借主が負担するもの」に絞ったうえで、いくら負担するかを決める段階の話になります。

経過年数(耐用年数)の考え方

借主の負担と決まっても、全額ではありません。設備には耐用年数があり、時間の経過で価値が下がっていきます。ガイドラインでは、耐用年数を経過した時点で残存価値を1円とし、そこまで直線的に価値が減っていくものとして負担割合を決めます。

入居年数クロス(耐用年数6年)の借主負担の目安
1年おおむね8割強
3年おおむね5割
5年おおむね2割弱
6年以上ほぼゼロ(1円)

ここが最大のポイントです。6年住んでいれば、たとえ借主の過失でクロスを汚していても、クロスの張り替え代そのものはほぼ請求できません。

部位別の耐用年数

部位・設備耐用年数
クロス(壁紙)6年
クッションフロア6年
カーペット6年
畳床6年
エアコン・ガスレンジ・冷蔵庫・インターホン6年
流し台5年
金属製以外の家具(書棚・タンス等)8年
便器・洗面台などの給排水衛生設備15年
ユニットバス・浴槽・下駄箱など建物の耐用年数による

畳は「床」と「表」で扱いが違います。畳床は6年、畳表は次で説明するとおり経過年数を考えません。ここは試験でも問われます。

例外① 経過年数を考えない部位がある

消耗品に近いものは、耐用年数による減価をしません。つまり何年住んでいても、借主の過失なら負担が残ります。

  • 畳表(表替え)
  • 襖紙・障子紙
  • フローリングの部分補修
  • 鍵の紛失・破損による交換

「6年住んだから何も払わなくていい」は誤りです。畳表を焦がした、襖を破った、鍵をなくした——ここは年数に関係なく負担が発生します。

なおフローリングは、全面張り替えになる場合には建物の耐用年数で考えるという整理です。部分補修と全面で扱いが変わる点に注意してください。

例外② 「1円」でも作業の手間は残ることがある

耐用年数を過ぎた設備の価値は1円ですが、借主の過失によって発生した作業そのものが消えるわけではありません。

たとえば、借主の過失で下地ボードまで傷つけた場合、下地の補修は別の話になります。クロスの価値がゼロでも、下地まで壊れていれば、その補修費用が問題になります。

「クロスは6年でゼロ」は、クロスの張り替え代についての話——ここを混同すると、双方の主張がすれ違います。

例外③ 特約が有効に成立している場合

ガイドラインは強制力のある法律ではなく、指針です。契約で別の定め(特約)を置くことは可能とされていますが、有効になるには条件があります。

  1. 特約の必要性があり、暴利的でないなどの合理的な理由がある
  2. 借主が、通常の原状回復義務を超える負担を負うことを認識している
  3. 借主が、それを承諾する意思表示をしている

契約書に一行書いてあるだけでは足りません。ハウスクリーニング代の負担特約が争われやすいのは、この3要件をめぐる話です。

負担割合の計算例

入居3年、借主の過失でクロスを汚した。張り替え費用6万円。

  1. クロスの耐用年数は6年
  2. 3年経過なので、残存価値はおおむね半分
  3. 借主負担はおおむね3万円

さらに、汚した範囲だけでよいのか、部屋全体を張り替えるのかという論点があります。ガイドラインは「毀損部分を含む一面」を基本的な単位としています。1か所の汚れで部屋4面すべてを請求されたら、そこは確認してください。

よくある質問

Q. たばこのヤニによる変色は借主負担ですか
喫煙によるヤニ・臭いは通常の使用を超えると扱われるのが一般的です。ただし負担額は経過年数で減価されます。6年住んでいればクロス代はほぼ残りません。

Q. 日焼けによるクロスの変色は
日照など自然現象によるものは通常損耗で、貸主負担が原則です。

Q. 敷金から差し引かれた金額に納得できません
まず内訳の明細を求めてください。部位・単価・数量・経過年数の扱いが書かれているかを見ます。それでも折り合わない場合は、自治体の消費生活センターや、都道府県の賃貸住宅相談窓口があります。

Q. 試験ではどこが問われますか
耐用年数の数字、経過年数を考慮しない部位、負担の単位(一面か全体か)、特約の3要件——この4つが繰り返し問われます。

まとめ

  • まず通常損耗・経年変化は貸主負担。借主が負担するのは故意・過失や善管注意義務違反
  • 借主負担でも耐用年数で減価される。経過後の残存価値は1円
  • クロス・CF・カーペット・畳床・エアコンは6年、流し台5年、便器や洗面台は15年
  • 畳表・襖紙・フローリング部分補修・鍵は経過年数を考慮しない
  • クロスの価値がゼロでも、下地の毀損は別の話
  • 特約が有効になるには合理的理由・認識・承諾の3つ

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原状回復は、賃貸不動産経営管理士試験でもほぼ毎年出る論点です。しかも「数字を覚えるだけ」では解けず、経過年数を考えない部位や負担の単位まで問われます。独学だと、ガイドライン本文を読み込む時間が足りずにここを落とします。過去問と紐づけて論点ごとに整理してくれる講座を使うと、この手の「細かいが確実に出る」範囲を短時間で固められます。
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